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九州大学  先導物質化学研究所  物質基盤化学部門  分子物質化学分野 九州大学  大学院  理学府化学専攻・理学部化学科 佐藤研究室

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研究概要

■INDEX | 研究概要研究紹介

研究概要

本研究分野では、電気化学、光化学の知識をベースに、光や電気化学反応によりスイッチング特性を示す新規機能性材料の開発を目指し研究を行っている。特に光応答性磁性材料、原子価異性材料、光応答性フォトニック結晶、ナノ磁性材料の開発を中心課題としている。新しい機能性分子の合成から、物性の評価まで"光"をキーワードに幅広く研究を行っている。

研究概要

研究紹介

ダイナミック磁石[1]

光磁石(鉄コバルト錯体)

光磁石(鉄コバルト錯体)

 電気[2]、光[3]、化学的刺激[4]で磁性を制御できる新物質の開発を行っている。特に、プルシアンブルー類似化合物の一つである鉄コバルトプルシアンブルーK0.4Co1.3[Fe(CN)6]•xH2Oに光を照射すると、常磁性体から磁石(フェリ磁性体)に変化することを見出した。すなわち5 KでFeII-LS からCoIII-LSへの電荷移動吸収バンドを励起したところ電子移動が誘起され、FeIII-LS-CN-CoII-HSの構造を有する準安定状態が低温で保持された。光照射後の磁気特性を測定したところ26 Kでフェリ磁性体へ変化し、2 Kで6000Gの保磁力を有することが分かった(図)。この光反応は以下のように表せる。
 FeII-LS-CN-CoIII-LS (光照射前) FeIII-LS-CN-CoII-HS (光照射後)
この物質は分子磁性体で見出された初めての光磁石である。[5]

文献

[1] O. Sato, J. Tao, Y. Z. Zhang, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 2152-2187.

[2] O. Sato, T. Iyoda, A. Fujishima, K. Hashimoto, Science 1996, 271, 49-51.

[3] O. Sato, T. Iyoda, A. Fujishima, K. Hashimoto, Science 1996, 272, 704-705.

[4] O. Sato, Y. Einaga, T. Iyoda, A. Fujishima, K. Hashimoto, J. Phys. Chem. 1997, 101, 3903-3905.

[5] O. Sato, Acc. Chem. Res. 2003, 36, 692-700.

光応答性一次元磁性体

光応答性一次元磁性体

光応答性一次元性磁性体

 磁気的相互作用が強く一軸異方性を有する金属から構成される一次元物質は、単一次元鎖磁石としての特性を示す。我々は、光磁気メモリー材料への応用を目指し光照射によって可逆に単一次元鎖磁石特性を制御できる新物質の開発を試みた。[6]
 光誘起金属間電子移動を示す一次元物質を開発するために、コバルトが窒素六配位構造を有し一次元鎖同士が磁気的に分離された構造を持つ錯体{[Fe(PzTp)(CN)3]2 Co(4-styrylpyridine)2}•2H2O•2CH3OH;PzTp = tetrakis(pyrazolyl)borate)を合成した(図)。この錯体は温度変化によりFe-Co間電子移動を示した。300Kから温度を下げると約230Kでヒステリシスを伴う磁化の変化が観測された。これは以下のFe-Co間電荷移動相転移が起きたことを示している。
{[FeIII(PzTp)(CN)3]2CoII(4-styrylpyridine)}•2H3O•2CH3OH
[FeII(PzTp)(CN)3][FeIII(PzTp)(CN)3] CoIII(4-styrylpyridine)}•2H3O•2CH3OH. 
この錯体に532nmのレーザー光を照射し鉄-コバルト間電荷移動吸収バンドを励起したところχT値の著しい増加が観測された。これは、鉄からコバルトへの電子移動が誘起されFeII-LS-CN-CoIII-LSからFeIII-LS-CN-CoII-HSへの変化が起きたためである。光照射後加熱すると、準安定状態(FeIII-LS-CN-CoII-HS)から最安定状態(FeII-LS,/-CN-CoIII-LS)への緩和が誘起されχT値は約100Kで光照射前の値に重なった。この錯体の光照射後の交流磁化率を測定したところ、実部、虚部共に周波数依存性を示した。これらの結果は、{[Fe(PzTp)(CN)3]2 Co(4-styrylpyridine)2}•2H2O•2CH3OHが光応答性単一次元鎖磁石であることを示している。[6]
 さらに、最近、光誘起電子移動により単一次元鎖磁石の反強磁性相に変化する物質[7]、光誘起スピン転移により単一次元鎖磁石に変化する物質[8]、及びゲスト応答性一次元物質[9]の開発に成功している。

文献

[6] D. P. Dong, T. Liu, S. Kanegawa, S. Kang, O. Sato, C. He, C. Y. Duan, Angew. Chem.Int. Ed. 2012, 51,5119-5123.

[7] T. Liu, Y. J. Zhang, S. Kanegawa, O. Sato, J. Am. Chem. So. 2010, 132, 8250-8251.

[8] T. Liu, H. Zheng, S. Kang, Y. Shiota, S. Hayami, M. Mito, O. Sato, K. Yoshizawa, S. Kanegawa, C. Duan, Nat. Commun. 2013, 4, 2826.

[9] T. Liu, Y. J. Zhang, S. Kanegawa, O. Sato, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 8645-8648.

磁性クラスター

光応答性鉄四核錯体

光応答性鉄四核錯体

 磁気ナノメモリー材料への応用を目指しFe6Mn6十二核錯体[10]等の単分子磁石を開発した。また、最近、スピン転移と反強磁性的相互作用がシナジー効果を示す光応答性鉄四核錯体を開発した。[11]合成した物質は酸素原子で架橋されたグリッド型FeII四核クラスター(図)である。この物質は温度変化でスピン転移を示し四つの鉄が高スピンである状態(FeII-HS4)から二つの鉄が高スピン、残りの二つが低スピンをとる状態(FeII-HS2FeII-LS2)に変化する。この時二つの高スピンサイトがシス型構造をとり、FeII-HS間に酸素原子を介した反強磁性相互作用が働くため、その基底状態はS = 0である。また、四核錯体に低温で可視光照射を行うとスピン転移が誘起され四つの鉄が高スピン状態に変化した。
    FeII-HS2FeII-LS2 (光照射前) FeII-HS4 (光照射後)
 この時、酸素原子を介した反強磁性相互作用がFeII-HS間に働くため、基底状態はS = 0である。すなわち、分子内に反強磁性的相互作用が働くために光照射前後でS = 0 ↹ S = 0となる光応答挙動が観測された。[11]
 この他に、光応答性FeCoFe三核錯体[12]、鉄四十二核高スピン錯体[13]の開発等に成功している。

文献

[10] Z.-H. Ni, H.-Z. Kou, L.-F. Zhang, C. Ge, A.-L. Cui, R.-J. Wang, Y. Li, O. Sato, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 7742-7745.

[11] D. Y. Wu, O. Sato, Y. Einaga, C. Y. Duan, Angew. Chem.Int. Ed. 2009, 48, 1475-1478.

[12] T. Liu, D. P. Dong, S. Kanegawa, S. Kang, O. Sato, Y. Shiota, K. Yoshizawa, S. Hayami, S. Wu, C. He, C. Y. Duan, Angew. Chem.Int. Ed. 2012, 51, 4367-4370.

[13] S. Kang, H. Zheng, T. Liu, K. Hamachi, S. Kanegawa, K. Sugimoto, Y. Shiota, S. Hayami, M. Mito, T. Nakamura, M. Nakano, M. L. Baker, H. Nojiri, K. Yoshizawa, C. Duan, O. Sato,Nature Communications, 2015, 6, 5955.

機能性単核金属錯体

 光誘起スピン転移は鉄二価錯体のみで観測される現象であると考えられてきたが、我々は2000年に鉄三価錯体でも光誘起スピン転移を実現できることを見出した。[14]
       FeIII-LS (光照射前) ↹ FeIII-HS (光照射後)
また、最近コバルト原子価異性錯体が光照射により配位子金属間電子移動を示し、準安定状態が低温で長時間保持されることを見出した。[15] [CoIII-LS(tmeda)(3,5-DBSQ) (3,5-DBCat)]・(C6H5CH3)0.5 (tmeda=N,N,N',N' –tetramethylethylenediamine) の光応答は以下のように表せる。
      [CoIII-LS(tmeda)(3,5-DBSQ)(3,5-DBCat)]・(C6H5CH3)0.5 (光照射前)
         [CoII-HS(tmeda)(3,5-DBSQ)2]・(C6H5CH3)0.5 (光照射後)

Ni錯体アクチュエーター

Ni錯体アクチュエーター

 さらに、分子配向の変化(変位・回転)がマクロな機械的機能に変換される分子結晶アクチュエーターを開発することを目指し検討を行い、ニッケル錯体 [NiII(ethylenediamine)3](ox) (ox2− = oxalate anion) が強弾性相転移を示し、相転移温度で異方的な結晶伸縮を示すことを見出した。 [16]異方的な結晶伸縮のメカニズムを明らかにするために相転移温度(約260 K)前後の単結晶構造解析を行ったところ、相転移点でシュウ酸イオンが90度回転し、ニッケル錯体間の分子間距離が0.519Å変化することが分かった(図)。また、分子結晶中で分子回転が協同的に誘起されるため、回転に基づくサブナノメーターの変化が増幅し、数十ミクロンオーダーのダイナミックな結晶伸縮が観測されることが分かった。
 その他、フォトクロミック銅錯体、軌道角運動量のスイッチング特性を示すコバルト錯体[17]等の開発に成功している。

文献

[14] S. Hayami, Z.-Z. Gu, M. Shiro, Y. Einaga, A. Fujishima, O. Sato, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 7126-7127.

[15] O. Sato, A. L. Cui, R. Matsuda, J. Tao, S. Hayami, Acc. Chem. Res. 2007, 40, 361-369.

[16] Zi-Shuo Yao, Masaki Mito, Takashi Kamachi, Yoshihito Shiota, Kazunari Yoshizawa, Nobuaki Azuma, Yuji Miyazaki, Kazuyuki Takahashi, Kuirun Zhang, Takumi Nakanishi, Soonchul Kang, S. Kanegawa, O. Sato, Nat. Chem. 2014, 6, 1079-1083.

[17] G. Juhasz, R. Matsuda, S. Kanegawa, K. Inoue, O. Sato, K. Yoshizawa, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 4560.4561.

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